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Traffi-Cationトップページ > Traffi-Cation 2019 秋号(No.52)

【特集】キーワード:超高齢社会・交通問題

高齢者の“自ら移動する自由”確保のために

〜一人乗り電動カートが次世代パーソナルモビリティとなるための要件〜

 高齢ドライバーによる交通事故が多く報じられている昨今、運転免許を返納する高齢者が増えています。一方で、公共交通機関の機能が低下している地方にあっては、運転免許を返納した後の住民の移動手段確保が大きな課題となっています。

 政府・自治体ではさまざまな対応策を講じていますが、それらの方策は“他者の力を借りずに自らが自由に移動したい”という欲求の実現にはほど遠いものとなっています。

 そうした中、自ら移動することを実現するひとつの手段として考えられるのが一人乗り電動カートです。
 一人乗り電動カートはこれからの新たなパーソナルモビリティとなり得るのか、そのためには何が求められるのか、研究開発を進めているロボットメーカーへの取材とともに、これからの移動手段について考えます。

超高齢社会における移動

日本の高齢化率

 日本はいま、超高齢社会です。超高齢社会とは、65 歳以上の人口の割合が全人口の 21%を超えている社会のことで、日本は 2007 年にこの 21%を超えました。

 2018 年 10 月 1 日現在の日本の高齢化率は 28.1%(65 歳以上人口が 3,558 万人)で、今後も上昇を続け、2036 年には 33.3%(3 人に 1 人が高齢者)になると推計されています(『令和元年版 高齢社会白書』内閣府)。
※高齢社会の段階:「高齢化社会」= 7%超、「高齢社会」= 14%超、「超高齢社会」= 21%超。

狭まる高齢者の移動手段

近年、高齢ドライバーによる交通事故が増加していることもあり、65 歳以上の運転免許返納件数は、2009 年からの 10 年間で 5 万人から 40 万人へと 8 倍に増えています(図 1)。

図1 運転免許返納件数および返納率の推移

図1

出典:「運転免許統計」(平成30年版)警察庁

 ただ、増えているとは言え、高齢者の免許返納率 (65 歳以上の免許保有者に占める返納者の比率) は 2.2%で、75 歳以上でも 5.2% に留まっています。

 運転免許を返納すると運転経歴証明書が交付され、多くの自治体ではこれを提示するとバスやタクシーの運賃割引が受けられるなどの施策を行っていますが、自由な移動は高齢者の自立した生活に欠かせないことから、運転免許返納は進んでいないのが実情です。

 特に、高齢化や過疎化の進行により路線の廃線や減便が行われ、公共交通機能が低下している地方にあっては、運転免許を返納した後の移動手段確保が大きな課題となっています。

 こうした状況に対応するため、政府や自治体、自動車メーカーや輸送業などの企業もさまざまな方策を検討しています。

取り組み事例から見る現状の課題

移動支援の取り組み事例

 移動手段の確保と、公共交通の活性化・再生を目的に、政府・自治体は国家戦略特区などの制度も活用しながら、地域の高齢者をはじめとする移動困難者に向けたデマンドバスやライドシェアなどの取り組みを進めています(表 1)。

表1 高齢者の移動を支援する取り組み事例

 
手段と主な目的
取り組みの内容・特徴
普通免許
普及のための課題等













サポカー/サポカーS
(セーフティ・サポートカーの略)
  • 先進安全技術による事故の防止

サポカー:先進安全技術である衝突被害軽減ブレーキを搭載したクルマ
サポカーS:衝突被害軽減ブレーキに加え、高齢者に多いアクセルとブレーキの踏み間違い防止機能を備えているクルマ

必要
  • サポカー限定免許導入を検討
  • 新車購入が必要で個人負担が大きい
超小型モビリティ
No.44(ʻ17年春号)
  • 観光産業活性化

軽自動車以下のサイズで地域の手軽な移動手段
最高速度は80km/h

  • 比較的高価格(80万円程度)
  • 個人所有が認められていない
現状の取り組みにない領域
  • 交通弱者でも運転可能で、かつ普通免許を必要としない(限定免許等)で走行できる新たな規格のモビリティ















自動走行カート
No.46(ʻ17年秋号)
  • 公共交通の代替

自動電動カート(電磁誘導線の上を走る)で市内を巡る

不要
  • 走行ルートが決まっている
  • 運行時刻表に合わせる必要がある
ライドシェア
No.45(ʻ17年夏号)
  • 公共交通の代替

乗りたい人と乗せたい人を結ぶシェアリングサービスのタクシー

  • 利用は域内*に限られる
  • 事前の配車依頼が必要
デマンドバス
No.33(ʻ13年夏号)
  • 公共交通の代替

時間や乗降場所など、利用者の要望(デマンド)に応えるバスシステム

  • 相乗りのため直行しないことがある
  • 事前に利用時刻の指定が必要
相乗りタクシー
No.44(ʻ17年春号)
  • 混雑緩和
  • 運転手不足解消

スマホアプリで複数の乗客をマッチングするシステム
(現在は法律上不可だが、改正の動きがある)

  • 相乗りのため直行しないことがある

 公共交通空白地有有償運送制度の適用地域
 青字は、本誌で特集した既刊号

 表 1 の上段に記した 2 つの方法は、自ら運転することで移動の自由を確保するものです。自ら運転するので「自主運転型」と分類します。

  • サポカー・サポカー S(セーフティ・サポートカー):衝突被害軽減ブレーキを搭載した自動車で、サポカーS はアクセルとブレーキの踏み間違い防止装置も備えています。日本の自動車メーカーの新車のおよそ 8 割が衝突被害軽減ブレーキを装備しており、2020 年度にはそれが 9 割に達することが見込まれています。

     現在、警察庁などで運転免許を返納した高齢者向けにサポカーに限定した免許の導入が検討されていますが、2019 年に東京・池袋で発生したようなアクセルを踏み続けて高速に達した車の事故では、効果が限定的であり、サポカーは万能ではありません。また、新車購入時に補助を行う自治体もありますが、新車の購入自体が個人にとっては負担となります。

  • 超小型モビリティ:原付バイク以上、軽自動車以下のサイズで、乗車定員が 2 人以下の車両です。最高速度は 60 〜 80km、コンパクトで環境性能も良い手軽な移動手段として期待されていますが、安全対策が必要であり、車両性能や快適性なども含めて考えると比較的高価格です(80万円程度)。

     さらに実証実験は行われているものの、具体的な法整備が進まず、現状では用途が観光や業務・公務での使用に限られ、個人利用が認められていないため、運転免許返納者の受け皿とはなっていません。

 この 2 つは、自由な移動を実現するものですが、いずれも普通運転免許が必要です。

超高齢社会に求められる移動の視点

 表 1 に掲げた「自主運転型」の方策は、いずれも免許返納後の高齢者の移動手段としては不十分です。
 高齢者をはじめとした交通弱者にとって望ましいモビリティとは、普通運転免許がなくても安心して運転でき、自由に移動できるものではないでしょうか。

 ひとつには現在の超小型モビリティを活用した新たな規格の創設が考えられます。前にみた通り超小型モビリティの課題は価格と法整備です。

 超小型モビリティの最高速度は 60 〜 80km/h とされていますが、これを 20 〜 30km/h と自転車並みにすれば、安全装備などの簡素化により低価格化が可能になります。法整備の面では、個人所有を可能にするのはもちろん、中速化することでバス専用レーンや自転車専用レーンを走行可能にすれば安心感も高まると思われます。

 もうひとつは、自らが操縦する一人乗り電動カート(電動車いす、シニアカーなど)の活用が考えられます(写真①)。

写真①

写真① 電動車いす セニアカーET4D
写真提供:スズキ株式会社

 

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